「あの巨大リゾートはどこへ消えたのか」――ダイワロイヤルホテル消滅から2年、2026年に見えてきた地方観光のリアル
ダイワ ロイヤル ホテルという看板が日本の主要リゾート地から一斉に姿を消して、早いもので丸2年が経過した。バブル期から平成にかけて全国の景勝地を席巻し、修学旅行や三世代家族旅行の代名詞だった巨大ホテル群の看板掛け替え。あの時、観光業界を駆け巡った電撃的な再編の余波は、2026年の今、地方経済の構造そのものを揺さぶる形で表面化している。
かつて週末ともなれば大型観光バスが何台も乗りつけ、ロビーの隅々まで家族連れの歓声で満たされていたダイワ ロイヤル ホテルの広大な敷地には、いまや外資系メガチェーン・仏アコーが手掛けるモダンな意匠が静かに馴染んでいる。国内リゾートの地殻変動から2年。あの巨大な「昭和・平成の遺構」は、果たして本当に生まれ変わることができたのか。現場を歩くと、成功の美名だけでは覆い隠せない、生々しい現実が浮かび上がってくる。
1. 23拠点一斉転換の余波:2026年、現場で起きていた「静かな選別」
2024年4月、大和リゾートが抱えていた国内23カ所の大型ホテルは、一夜にして「グランドメルキュール」と「メルキュール」へと衣替えを果たした。12棟がアップスケールのグランドメルキュールに、11棟がミッドスケールのメルキュールへ。業界関係者が「無謀」とすら囁いたメガリブランドは、2年を経た2026年の今、明確な明暗を分け始めている。
八ヶ岳や那須、京都宮津といった首都圏・大都市圏からのアクセスが良い拠点は、インバウンドの爆発的な流入を取り込んで客室単価が倍近くまで跳ね上がった。一方で、二次交通が脆弱な地方の単独拠点では、従来の日本人シニア層の足が遠のき、平日の稼働率維持に苦心する光景が見られる。看板を変えれば客が押し寄せるわけではない。容赦のない市場の選別が、現場を冷徹に貫いている。
2. オールインクルーシブへの大舵切り――昭和の遺産と現代ラグジュアリーの摩擦
新生ホテルの最大の武器となったのが、宿泊料金に夕朝食ビュッフェやラウンジでのアルコール、アクティビティまでを含める「オールインクルーシブ」の導入だった。追加料金を気にせず地ワインやローカルスナックを愉しめるラウンジは、オープン当初こそSNSで絶大な話題を呼んだ。
しかし、築30年を超す巨大な建屋そのものを完全に隠蔽することはできない。モダンに改装されたクラブラウンジを一歩出れば、昭和の香りを色濃く残す長大な廊下や、往年の宴会場の面影が顔をのぞかせる。このギャップに戸惑う声は少なくない。ラグジュアリーを期待した都市部の宿泊客と、かつての気安さを求めて再訪した古くからのファン。双方が抱く「違和感」の解消こそが、現場スタッフが日々直面する最もデリケートな課題だ。
3. 「ロイネット」との混同が生む現代の迷走と、ブランドの宿命
2026年になっても、予約サイトのレビュー欄やフロントデスクで後を絶たないのが、ビジネスホテルチェーン「ダイワロイネットホテル」との取り違えだ。一般の旅行者にとって、かつての同根企業によるブランドの棲み分けはあまりにも分かりにくい。
「ダイワ」の名がリゾートの看板から消滅したことで、皮肉にも都市型ホテルであるロイネットのコールセンターに「昔泊まったあの海沿いのロイヤルホテルを予約したい」という問い合わせが迷い込む事態が続いている。半世紀近くかけて地方に根付いた巨大ブランドの記憶は、数年程度のコーポレートアイデンティティ変更では容易に上書きされない。企業側の思惑と大衆の認知のズレは、今なお解消されていない宿題のままだ。
4. 地方経済の生命線:外資系オペレーターは雇用と地元サプライチェーンを守れたか
地方都市において、数百室を誇る大型ホテルは単なる宿泊施設ではない。地域の雇用を一手に引き受け、地元の農協や水産仲卸、リネン業者を潤す経済の心臓部そのものだった。
アコー主導のグローバルスタンダードへの移行は、合理化の波を容赦なく持ち込んだ。食材調達の全国一括化により、一部の地元小規模生産者が納入業者から外れる痛みを伴った地域もある。しかしその反面、世界規模のロイヤルティプログラムを通じて、それまで海外では無名に近かった日本の地方都市へ欧米豪の富裕層が直接送り込まれるという、かつての大和リゾート単体では成し得なかった新たな外貨獲得ルートが切り拓かれたのも紛れもない事実だ。
5. 旅慣れたリピーターが語る本音「洗練されたが、あの泥臭さが恋しい」
「昔は良かった、とは言いたくない。でも、あの頃の独特の温かみは消えてしまった気がする」
毎年のように家族で南房総の施設を訪れていたという千葉県在住の60代男性は、少し寂しそうにそう漏らす。かつての施設には、地元のおばちゃんスタッフが笑顔で配る郷土料理や、ゲームコーナーの喧騒、どこか垢抜けないが温かい日本の家族旅行の「型」があった。現在のスマートでスタイリッシュな空間、英語が飛び交うバーカウンターは確かに洗練されているが、昭和の家族旅行が持っていたあの泥臭い情緒とは決定的に別物だ。均質化されたグローバル基準と、日本固有の旅情。その狭間で揺れるリピーターの胸中は複雑だ。
6. 2026年以降のロードマップ:巨大箱モノリゾートの生存戦略
日本全国に点在するバブル期生まれの巨大リゾートホテルは、今や一斉に建物の寿命と事業モデルの転換期を迎えている。その意味で、いち早く外資の資本とブランド力を注入して大手術を断行したこの23拠点の試みは、日本各地の観光地にとっての「先行実験」に他ならない。
過去の成功体験にしがみついて座して死を待つか、それとも痛みを伴う看板の刷新と外資の規律を受け入れて生き残りを図るか。2026年の今、見えてきたのは単なるホテルの変名劇ではない。少子高齢化とインバウンドバブルという両極端の波に揉まれる日本リゾート産業が、過去の栄光を脱ぎ捨てて生き延びるための、壮絶な生存競争の縮図なのだ。 (出典: ダイワ ロイヤル ホテル(Yahoo!ニュース))